Happy Hakko Feature vol.01|尾仲宏康先生に聞く「微生物と発酵の世界」
学習院大学 理学生命科学科 教授
尾仲 宏康 先生 に聞く 『微生物と発酵の世界』
コンブチャはもちろん、さまざまな発酵食品の元となっている微生物たち。目には見えないけれど、私たちの暮らしのさまざまな場面に関わっている微生物たち。発酵食品づくりをはじめ、身近なところでも活躍する、興味深い存在だ。
地球上に1兆種いるという微生物について研究されている尾仲先生に、その知られざる生態と魅力についてお話を伺った。
〈先生は普段、どんな研究をされているんですか?〉
〈薬も発酵で作られているとは驚きです。〉
発酵食品やお酒と、根っこは一緒なんですよね。例えば、お酒は酵母菌、納豆は納豆菌、ヨーグルトは乳酸菌。すべて微生物の働きです。
実は僕、大のお酒好きで。笑
土の微生物を研究する中で、趣味が高じて、自然界にいる「野生酵母」を捕まえてきて自分で酒造りもしているんです。
以前、東大に20年ほどいたのですが、その時に研究の一環で作った日本酒は『尾仲』というラベルで、今も東大のギフトショップで売られていますよ。
今は学習院の150周年記念に向けて、野生のワイン酵母を使って白ワインのようなお酒を仕込んでいます。
来年にはお披露目できる予定ですよ。
〈微生物って、基本的に土の中にいるんですか?〉
いやいや、地球上の至る所どこにでもにいますよ。
温泉とか海底とか空気中にも漂ってるし、僕らの皮膚や腸内にも。この地球上に微生物は何種類いるかっていうと、全部数えることは出来ないんだけど、試算上では約一兆種類いると言われてるんですよ。人類はホモ・サピエンス一種類しかいないのに、すごい数ですよね。笑
目に見えない生物のことを全部 ”微生物” っていうんだけど、みんなそれぞれ能力が違うんです。それこそ、あるものはお酒を作るし、あるものはヨーグルト作るし、納豆作るしって感じで。同じ微生物なのに、全部種類が全然違うんですよね。
そしてそのほとんどは、人間に対して害もないし、良いこともしないっていう中立が多いんだけど、こうして発酵飲料や食品づくりに関わる微生物は、私たちの食文化を支えてくれる存在ですね。
〈人間にとって良い微生物で、まだ発見されていないのもいるんですか?〉
もちろん。
一兆種類いるって事は、一人が一種類について研究しても一兆人必要ですからね。笑
しかも人間だって黒人もいれば白人もいるし、僕らの中でも一人ひとり性格が違うし趣味も違うじゃない?
そう考えると微生物って無限ですよね。
そして厄介なのが、目に見えないから何処にいるかがわからない。
もしかしたら今、目の前のここに、すごい能力のやつがいるかもしれないですよね。笑
〈どうやって調べるんですか?〉
残念ながら虫眼鏡みたいなのがあって、簡単に「ここにいますよ!」って感じにはなってなくて。
微生物って、顕微鏡で見てもちっちゃな点にしか見えないから区別がつかないんですよ。
僕ら人間ってそれぞれ顔も違うから、すぐに誰々さんってわかるけど、微生物は基本的に全然わからないんです。電子顕微鏡を使うとかなり拡大出来るので、表面がちょっと違うなとかはわかるんだけど、それでも区別がつかないものがたくさんいて。。。
じゃあどうするかっていうと、遺伝子を調べるんです。
遺伝子解析をすると遺伝子の配列がわかるので、それが違ってると別の菌だよねって。
〈以前、先生の研究室を訪ねた時、土がないのに”土の匂い”がしたのが印象的でした。〉
そう。あれは微生物の体臭ですね。笑
土の匂いは、さっき話した放線菌っていう微生物が出してるんだけど、僕らと同じで酸素を吸って二酸化炭素を出す ”呼吸” をしてるんです。他にも緑藻とかバクテリアって言われてる ”光合成” が出来る能力を持ってる奴もいますよ。あとは結構高い割合で、酸素が無いところに住んでる微生物っているんですよ。
僕らは酸素が無いと窒息しちゃうけど、中には酸素があると死んじゃう菌もいるんですよね。
例えば僕らのお腹の中には、すごくたくさん微生物がいるんだけど、腸の中って密閉されてるから酸素が足りないでしょ?
一応食事と一緒に酸素は入るけど、そんなのちょっとですからね。
酸素が無いと生きられない奴はそこで終わるんだけど、その環境でも生きられるのがいわゆる腸内細菌ですね。
〈腸活ってその菌のことなんですね。〉
基本的に僕らが食べて栄養になる物は、全部胃で分解されて、そのあと小腸で吸収されて血流に乗るんだけど、食物繊維とか消化できない物は、そのまま大腸から体の外に出ていくでしょ。
その最後の大腸にいるのが腸内細菌。腐った物を食べるとお腹壊すじゃないですか。
O-157とか聞いたことあると思うけど、あれも出血性大腸菌と言って人間にとって食中毒を起こす微生物なんです。
腸内にはさまざまな微生物が存在していて、それぞれが異なる特徴を持っているんですよ。腸内細菌については、どのような種類がいて、どのように関わり合っているのか、研究が進められているんですよね。
〈先生にとって微生物ってなんですか?〉
深い質問だね。笑
僕にとって微生物は、最後のフロンティアっていうか、目に見えない世界で「まだまだ僕ら人間が理解できてない事がたくさんある」ということを教えてくれる良い研究材料ですね。
あとは微生物って、すごく小さくて単純なんだけど、ちゃんと生きてるんですよ。
人間は細胞が60兆個とかあって、「なぜ生きてるのか?」っていうのは複雑でなかなか理解できないけど、微生物は目に見えないくらい小さくて一つの細胞だから、その細胞の仕組みさえわかれば、それがわかる気がするでしょ?
微生物にはさまざまな種類があり、人間と関わるものもいれば、食品づくりに活用されるものもいます。目に見えない小さな生物が、私たちの暮らしと深く関わっているところも面白いですよね。
常に僕たちと共にいるわけで、僕らは全然意識してないけど、多分僕らのパートナーなんですよね微生物って。
だからそのパートナーが何をしてるのかもっと知りたいですよね、自分と一緒に生きてる生物たちなんだから。
尾仲宏康
学習院大学 理学生命学科 教授 博士(農学)
微生物化学・応用微生物学を専門とする研究者で、その活動は基礎の研究にとどまらず、酵母を活用した清酒(日本酒)造りなど、地域・産業への社会実装や応用展開にも大きく貢献している。
主な経歴
- 1988年 千葉県立東葛飾高校卒業
- 1998年 東京大学大学院農学生命科学研究科 博士課程終了
- 1997〜1999年 日本学術研究会 特別研究員
- 1999年 富山県立大学工学部生物工学研究センター 助手
- 2006年 富山県立大学工学部生物工科 講師
- 2010年 富山県立大学工学部生物工学研究センター 准教授
- 2012年 東京大学大学院農学生命科学研究科 特任教授
- 2023年 学習院大学理学部生命科学科 教授
主に微生物の生態についてですね。
例えばお医者さんに行くと抗生物質ってもらうでしょ?
あれって実は微生物なんですよ。
他にもペニシリンとか聞いたことあると思うけど、あれも微生物から出来てる。今は合成品もあるんだけど、元々は薬を作る「放線菌」っていう微生物がいて、それを発酵させて抽出して薬にしてるんですよね。
じゃあその放線菌はどこにいるかっていうと、土の中なんです。それで各地を周って、いろんな土から薬を作る微生物を探してきて、それがどんな薬の元になるかなっていうのを調べる。
それが研究室のメインテーマです。